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vol.8 臨時号 発行:成瀬医院 成瀬 清子 東京都杉並区清水 2-22-22 tel 03-5311-5133 |
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目 次
お腹の風邪の説明文です。てっきり「そよかぜ通信」に載せた文章と思っておりましたが、院内でお配りしていただけでした。家族にうつる前に読んでおきたかった、とかホームページにも載せたらとの声を聞きますので、遅ればせながら掲載いたします。今年度お配りしているインフルエンザに関する文もそよかぜ通信とホームページに載せたいと思っているのですが、まずは感染性胃腸炎のみです。平成16年秋に書いた文章ですが、17年用に書き換えるとまた遅れますので原文のまま掲載いたします。
毎年初冬から春にかけてウィルスの感染で起こる、いわゆる「お腹の風邪」が流行ります。今年(注:2004年)、杉並区では9月頃から保育園等を中心に、ノロウィルスによる感染性の胃腸炎が集団発生しています。耳慣れないウィルスのため、何か特別の病気のように思われますが、別に目新しいウィルスではありません。今までSRSV(小型球形ウィルス)と呼ばれていたウィルスの名前が、一昨年の国際ウィルス学会でノロウィルスに決まり、日本の食品衛生法でもこの名前に改定されたため、広く使われるようになってきています。
ノロウィルスの他に、ロタウィルス、アデノウィルス等も感染性胃腸炎の原因になります。
症状は嘔吐、下痢、腹痛、38度以下の発熱などが主で、風邪症状の見られることもあります。嘔吐、吐き気は通常半日から一日でおさまり、その後下痢が始まることが多いようですが、必ずしも、すべての症状が出るわけではありません。下痢も軟便から水様便まで様々で、通常3日くらいでおさまりますが、中には一週間以上続くこともあります。冬期下痢症として以前からよく知られているロタウィルスほどは重症にはなりません。
ノロウィルスが騒がれるようになってから、「下痢をしているので、ノロウィルスかどうか調べてください。」とおっしゃるお母さんがしばしばおられます。しかし、残念ながら通常の医療機関では検査はでません。食中毒が疑われる時等は保健所が検査することはありますが、健康保険が使える検査ではないので、ちなみに当院で検査センターに依頼すると2万8千円かかります。その場で結果の出る迅速検査も勿論ありません。症状や身近な人の状況から推測するだけです。細菌性の腸炎が疑われる場合は便の培養をすることがありますし、ロタウィルスは迅速検査がありますが、ウィルス性腸炎の場合治療に差はないので、強いてウィルスを特定して診断する必要はありません。様々な風邪のウィルスを特定しないのと同じです。
ウィルスが原因ですから特効薬はありません。腸の中でたくさんウィルスが増えて症状が出ているので、無理矢理下痢止めで止めてしまうのがよくないことはお判りですね。一番大事な治療法は、安静と水分の摂取、つまり自分の力で治るまでの間に脱水にならないように、失われた水分を上手に補給することです。
水分なら何でもよいわけではなく、脱水症を起こしやすい乳幼児の場合は特に気をつけなくてはなりません。お味噌汁の上澄みのような塩分だけのものはかえって下痢を悪くすることがあります。ポカリスウェットのような大人のスポーツ飲料は塩分が少なく、糖分が多すぎるので適しません。脱水症状が強くなければ余り厳密に考えなくてもよいですが、できれば薬局で大塚のOS-1や和光堂のアクアライトを買っていただくとよいでしょう。御家庭で、水1リットルに塩2g、砂糖40gを溶かし、カリウムの補給と香付けのためにオレンジ果汁を加えれば、同じような飲物が作れます。いずれも飲み易くするために塩分を少なくしてあるので、あい間にスープやお味噌汁の上澄みが加えると、ロタウィルス感染のように一日数十回の嘔吐、下痢があっても、脱水を防いで点滴に至らずにすみます。
ただこれを、がむしゃらに飲んではいけません。一度に飲むとすぐに吐いてしまいますし、反射で腸も刺激して下痢を起こします。(飲んだものがすぐ下痢になるのではなく、小腸から分泌された消化液が吸収される前に出てしまうのですから、この成分を補うのです。)ポイントは少量ずつ、頻回に。
たとえ吐いたり下痢をしていても、少しずつ飲むことが大事です。赤ちゃんならスポイトで、幼児ならスプーンで一匙ずつといった感じです。
吐き始めて半日は固形物は避けた方がよく、吐き気がおさまり食欲があれば、下痢をしていても少しずつ普通の食事を開始します。下痢がひどい場合は、腸の粘膜が傷付き乳製品が下痢を長引かせる原因となることがあります。母乳はかまいませんが、ミルク、ヨーグルト等は控えましょう。
下痢がおさまっても、刺激の強いものや揚げ物等はしばらく控えます。さあ下痢が止まった、とコロッケやとんかつを食べて下痢がぶり返す事がよくあります。基本的に薬は必要無いのですが、吐き気止めや整腸剤などを使うこともあります。
吐物や便の中にたくさんウィルスがいて経口感染します。感染力が強く、ほんのわずかなウィルスがはいっただけで腸の中で増え、24−48時間で発症します。吐物や便の始末は素手で行なわず、手袋を使いましょう。吐物そのままにしておくと、乾いてウィルスが空気中に拡散します。よごれた衣服はできれば熱湯処理や漂白剤の入った洗剤で洗い、天日で充分乾かします。よごれた床等はハイタ−などの塩素系の殺菌剤で処理することで感染拡大を防ぎます。漂白剤が使えない物ではアルコールでもよいですが、作用は弱まります。
ウィルスが付着した所を触ることで経口感染します。手洗いは最も重要な予防法です。蛇口を介して感染しやすいので、手を洗ったことで安心せず、蛇口を汚染しないように気を付けましょう。お風呂も感染の場になります。症状のある人は一番最後に入り、お尻やよごれた部分を充分洗ってから湯舟に入りましょう。
細菌性の食中毒は夏場に多発しますが、冬にはウィルス性の食中毒が多くみられ、ノロウィルスは食中毒の原因としても有名です。汚染された水から牡蠣等の貝の内蔵に蓄積され(貝の中では増殖しません)、充分過熱しないで食べると食中毒の原因となります。60度では30分でも死にません。中まで充分過熱しましょう。また、よごれた手やまな板で調理したり、汚染された食器を使うことも食中毒の原因となります。家族が同じ日に発症したら、食中毒の可能性もあります。
余談ですが、きちんと管理された生食用の牡蠣等は、きれいな水を使って数日間飼育してから売られますので食中毒の心配はないものの、旨味成分も一緒に失われるとのこと。カキフライ、牡蠣鍋などに使う場合は「加熱用」を買った方が美味しい牡蠣が味わえそうです。
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