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成瀬医院

 


そよかぜ通信
 

 

Vol.1  号外1

インフルエンザ特集号
1999年12月16日

 

発行:成瀬医院  成瀬 清子

東京都杉並区清水 2-11-12

tel 03-5311-5133

 

 

 

目 次

インフルエンザの特効薬

ワクチンをもっと推奨すべきですが

効果と安全性は

いつ飲めばいいの

結論は

インフルエンザの診断が簡単にできます

追記

 


 

今年は驚くべき早さでワクチンがなくなってしまい、希望なさっても予防接種が受けられない状況で、昨年の様に流行したらどうしたらよいのだろうと不安に思われている方も多いことと思います。第4号でお知らせしたように、実はインフルエンザに効く薬があるのです。


インフルエンザの特効薬 

 アマンタジンというこの特効薬は、米国や欧州各国ではかなり昔から使われており、日本でも昨年の流行時に急遽認可されました。ウィルスの増殖をおさえるのはA型のみでB型には効きませんが、最近の流行の主流はA型です。発症予防効果と、発症48時間以内に飲み始めれば軽く済む治療効果もありますが、高い熱が出てしまってからでは効きません。それなら皆が早くから予防的にの飲めばいいと思われがちですが、そう安易には使えません。指針では、医師が特に必要と判断した場合となっており、一定の地域や施設でインフルエンザの流行がみられた場合等となっています。昨年は、老人ホームでインフルエンザが発症した際、他の入居者が予防的に内服したりしたようです。
 米国でアマンタジンが広く使われるようになると、パーキンソン病にも有効なことがわかり、日本ではパーキンソン病の薬としてのみ、広く使用されています。しかし、アマンタジンがインフルエンザに有効なことは医師にもほとんど知られておらず、私も昨年初めて知り、詳しい知識はありませんでした。パーキンソン病の薬として広く使われてれているので、大人への安全性はかなり高いだろうとは思っていましたが、効果と共に特に小児への安全性が知りたくて今回調べてみました。すると、なんと日本でも1967年-69年に(30年も前です)、15歳以下の子供274人を含めた数百人に投与した、かなりの規模の治験(新薬として使用することを念頭においた有効性と安全性の検討)が行われ、その有効性と安全性が確認されているのです。なぜ、認可申請が立ち消えになり、パーキンソン病の薬としてのみ使われているか、私にはわかりません。薬で発症を予防するのでなく、ワクチンで予防すべきものと考えたのではないかと思います。


ワクチンをもっと推奨すべきですが 

 今回の本題からは少しはずれますが、予防接種につきもう少し触れたいと思います。日本では1960年代より約30年間小中学生に集団接種が行われましたが、流行を防ぐことはできませんでした。副反応などの問題により(この副反応は、1972年以前に、現在とは全く異なる方法で作られたワクチンによるものではありますが)94年に集団接種を止めた際、老人やハイリスク群(心疾患、呼吸器疾患等々の慢性疾患を持つ患者さん)の接種という方向付けをしなかったため、接種率は著しく低下してしまいました。
 欧米でも、アマンタジンの内服より、ワクチンの接種をより重要と考えている点は同じです。ハイリスク群を含め、接種勧告を一切していないのは、先進19カ国で日本だけです。高齢者に無料で接種し、1995年における65歳以上の高齢者への接種率は米国で60%以上、フランスでは75%以上です。ちなみに日本では0.1%以下と考えられます。さらにはっきりと優先順位を決めています。これは、新型ウィルスが出たときなど、ワクチンが不足した際の混乱を防ぐためです。米国の優先順位のトップが「重要な政府関係者」となっているのはお国柄。さらに、資料に順位の示されていた英国、米国共に妊婦の順位が非常に高いことに驚きました。日本では、妊婦に接種は行っていません。一方日本では、心ある小児科医の先生方は、脳症、脳炎の予防効果に期待して、積極的に小児への予防接種を勧めておられます。英米では小児の順位は異なっており、必ずしも高くありません。この差は、インフルエンザが恐ろしいものと認識している関係者が、日本では限られていることの表れのように思います。
 このように積極的にワクチン接種を推奨したうえで、米国ではさらに毎年100万人以上が流行期に予防のためにアマンタジンを服用しています。それだけ、インフルエンザが恐ろしいものと認識されているからで、事実米国ではこれだけ対処していても高齢者を中心に、毎年2−4万人が死亡しているそうです。日本では、学級閉鎖は問題になるものの、高齢者やハイリスク群の被害状況は明らかにされておらず、専門家によれば、毎年少なくとも数千人の死者と数万人の入院患者が発生し、インフルエンザと気付かれないまま肺炎等の診断がなされているだろうとのことです。1996年の報告ですので、昨年などはさらにずっと多いことでしょう。医療関係者も、もっと、もっとインフルエンザについて知る必要がありそうです。


効果と安全性は

 アマンタジンのA型インフルエンザ予防効果は、年齢により50−90%と報告され、ワクチンのそれとほぼ同等です。感染予防効果よりも発病予防効果の方が高いようで、このことは、ウィルスが体内に入るけれど発病はせずワクチンと同様に免疫はできることになり、アマンタジンの利点とされています。
 この薬は、 予防効果だけでなく、発症してしまった後でも早い時期に内服すればひどくなるのを防ぐ治療効果もあるとお伝えしました。高熱が出にくく、病気の期間も短くなるのですが原則として治療目的に使用すべきではないともいわれています。耐性ウィルス(薬が効かないウィルス)ができやすいからです。自分としては使いたいけれど後々のことを考えると、というわけで難しい所です。
 副作用が全く無い薬はありませんが、安全性は高い薬と言えそうです。一日200mgの内服で、1−5%に不眠等の軽い神経症状が報告され、一日100mg では効果はほぼ同等で、副反応は軽減され、100mg 投与が推奨されています。小児への安全性を確認する米国の論文を頼んでいるのですが、まだ届きません。米国の教科書には、1歳から9歳の小児への投与量が記載されており、「インフルエンザから合併症を併発するリスクの高いあらゆる年代のワクチン非接種者に対しては、アマンタジンが推奨される。」とありますので、小児にも安全なようです。しかし、妊婦や授乳婦には使えず、痙攣性の病気のある人には、慎重な投与が必要です。坑ヒスタミン剤(くしゃみ、鼻水を止める薬)と一緒に飲むのも避けたほうがよいようです。


いつ飲めばいいの

 ここでひとつ問題になるのは、日本の保険制度。予防医学の考えがなく、薬は治療の為に使うものとされ、基本的に予防的使用は認められておりません。実は「血圧が高い」「コレステロールが高い」という状態を治療するのも、脳卒中や心筋梗塞などの危険な病気をおこさないための予防医学だと私は考えるのですが、それができるのは、「高血圧症」「高コレステロール血症」という疾患と認められているからです。そして、この予防はとても重要なこととされています。インフルエンザに関しても、発病させないためにも、耐性ウィルスを作らないためにも、予防的投与が望まれる訳ですが、保険制度の立場から、どこまでを予防、どこからを治療とみるか微妙です。
 学級閉鎖になったり、家族がかかったりすると、身近にいる人には多少なりともウィルスが入り込みます。感染するのです。しかし、そこでインフルエンザになるか(=発症するか)どうかは、入り込むウィルスの量や、体のコンディションによるので、発病しない人もたくさんいます。これを、不顕性感染といいますが、わずかずつ免疫はできます。この不顕性感染を繰り返しているので、おとなは「基礎免疫」ができていて、予防接種をしたりインフルエンザにかかった記憶がなくともワクチンを1回うつだけで、抗体価(免疫の強さ)があがるのです。話がまた脇へそれましたが、要するに、身近にインフルエンザにかかった人がいれば、おそらく感染しているだろうからそれを治療して発病を防ごう、と考えればアマンタジンを「治療」に使って発病を「予防」できると思っています。

 

結論は

 長くなりましたが、結論は、家族、職場、学校など身近にインフルエンザの人が出て、自分は寝込みたくないと思われる方はどうぞご相談下さい。この場合は、5−6週間内服を続けます。
 そしてさらに、入試を数日後に控えて鼻水が出始めたら、不安ですよね。やはり身近にインフルエンザにかかってる人がいれば、長い間の努力を無駄にしないためにも、治療することをお勧めしたいと思います。この場合は耐性ウィルスを作らないために内服は5日間にとどめます。しかし、鼻水が出ているぐらいで、はたしてインフルエンザか単なる風邪なのか区別がつかないときは、どうしたらいいでしょう。
 

インフルエンザの診断が簡単にできます

 昨年、鼻汁や咽頭ぬぐい液などを使って、約10分程でA型インフルエンザの診断ができる検査法が開発されました。しかも日本でも本年11月1日より健康保険を使って検査できるようになり、当院でも早速検査ができる体制に致しました。検査料は2割負担で400円、3割負担で600円です。発症後は上記のような緊急時に、検査をしたうえで使用したいと思っています。重症化を防ぐので、米国の教科書では、インフルエンザの典型的症状を有する患者はアマンタジンの治療を受けるべきだとしています。ご希望の方は、ご相談下さい。
 尚、アマンタジンは一般名で、当院でお出しする薬の商品名はシンメトレルです。


 今回の情報は長くなり過ぎ、少々難かしく読みにくかったかと思います。でも、国の対策が遅れているのなら、自分たちで充分な知識を持って自らを守る必要があると思い、また、読まない自由はあるので、知りたい方は知ることができるよう、少し詳しくお伝えしてみました。ちなみに、アメリカでは、A型、B型の両方に効くワクチンが認可されました。日本でも早急に検討を始めてもらいたいものです。
 知識を得るだけでなく、どうぞ皆さま、インフルエンザにお罹りになりませんよう、部屋の湿度を保ち、睡眠、栄養を充分にとって、元気に新年をお迎え下さい。


追記

 これを書いている間にも、日々新しい情報が入ってきます。昨晩の医師会の会合で、上記のA型、B型両方に効く薬が、日本でも1月早々に認可される見通しだとの話がありました。少し安心するとともに、書いた内容にちょっと不安も。ここでお知らせした他の内容も、もう古かったり、あるいは間違っていたりするかもしれません。私の知りうる限りの範囲での情報であることをどうぞご了承下さい。

 


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